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オリジナルゲームをヒットさせて、そこからIPの展開を目指す コーエーテクモ襟川陽一氏が語る「ゲームの未来」【CEDEC2016】

2016年09月05日 14時00分更新

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ゲーム業界では長く「おもしろいゲーム」を作ることが最重要の経営課題だった。しかし1990年代の後半から「おもしろいゲーム」を作ることは大前提で、そのうえで「売るための仕組み」を作り出す必要性が高まった。背景にあるのがゲームの大作化と、家庭用ゲーム市場の縮小、そしてモバイルゲームへの移行という、業界を直撃した業態遷移だ。

パシフィコ横浜で開催された「CEDEC2016」で、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長の襟川陽一氏がおこなったセッション「ゲームの未来」も、こうした業界の変化を如実に感じさせるものだった。襟川氏は前身となった光栄の社史を紐解きながら、会社のビジネスモデルが「ゲームソフト開発」から「IPの創造と展開」に変化してきたと語った。
 

▲襟川陽一氏


 

■ゲーム業界の山内一豊、社史を振り返る


栃木県足利市出身で、染料問屋の三代目として1950年に生誕。慶応大学商学部を卒業後、「丁稚奉公」のために中堅商社に入社し、4年半後に家業を継承。東南アジアからの輸入攻勢で繊維産業全体があえぐ中、家業をいったん整理し、1978年に社員2名で再出発したのが旧・光栄だ。もっとも、業界全体が構造不況の中で業績が上向くわけもなく、苦しい日々が続く。

こうした中、書店で雑誌「マイコン」を読んだ襟川氏。「パソコンが魔法の小箱のように見えた」というが、初任給が8万円の時代にパソコン一台が2~30万円する中、赤字企業では購入資金すら捻出することができなかった。見かねた恵子夫人(現コーエーテクモホールディングス代表取締役会長)が誕生日にへそくりでプレゼント。ここからゲーム会社としての光栄がスタートするのだから、まさに現代の山内一豊だろう。

文系だったが、プログラミングが性にあっていたという襟川氏。本業の合間をぬってBASICで開発したシミュレーションゲーム『川中島の合戦』がスマッシュヒットしたことで、ゲーム会社に事業モデルを変更。以下『信長の野望』『三國志』と、歴史シミュレーションゲームで急速に企業を成長させていく。1991年に店頭公開、1994年に東証二部、2000年に東証一部上場もはたした。

2009年にテクモと経営統合し、コーエーテクモホールディングスが誕生。今や日本の6大ゲーム会社(セガ、バンダイナムコ、スクウェア・エニックス、コナミデジタルエンタテインメント、カプコン、コーエーテクモ)に数えられるまでになった。再来年には40周年を迎える同社だが、その社歴を追うと、およそ10年ごとに節目があることがわかる。


①PCゲーム主力の時代(1978~1987)
『信長の野望』を皮切りに歴史シミュレーションゲームを開発・販売。「トップマネジメント」など他の分野にもシミュレーションゲームを広げていく。
 

▲『川中島の合戦』
 

▲『信長の野望』


②家庭用ゲームへの進出(1988~1999)
『信長の野望・全国版』でファミコンに参入。以後PCゲームで開発し、家庭用ゲームに移植という流れが定着する。競馬シミュレーションゲーム『Wining Post』、女性向け恋愛ゲーム『アンジェリーク』などジャンルを拡大。上場も果たす。
 


③ゲームジャンルと開発の多様化(2000~2008)
『真・三國無双』のヒットで、シミュレーションゲームに加えてアクションゲームが中核事業に成長。初のMMORPG『信長の野望Online』、コラボタイトル『ガンダム無双』もリリース。シンガポール、カナダへのスタジオ設置をはじめ、海外での現地開発にも乗り出す。
 


④M&AとIP展開、事業の多角化(2009~)
コーエーテクモホールディングスの設立、ガストの子会社化など、M&Aを通してゲームパブリッシャーとして成長を続ける。ソーシャルゲーム『100万人の信長の野望』などモバイルゲームにも進出。その一方で『ワンピース海賊無双』など、開発事業も本格化する。
 




近年では『戦国無双』『金色のコルダ』のアニメ展開やコミック・出版展開。食品業界・アパレル業界・地域イベントとのタイアップ展開。ホラーアドベンチャー『零』におけるメディアミックス展開など、他業種との連携が積極的におこなわれている。海外展開においても、欧米圏に加えて文化的特性が近いアジア圏に対して、より注力していく方針だという。
 


もっとも襟川氏は「欧米のAAAゲームは500万本~1000万本のセールスを見こしたプロジェクトが一般的で、全世界100万本セールスくらいでは相手にしてもらえない」と語った。実際、同社は『トロイ無双』など海外メインのゲームを過去にもリリースしているが、セールスは苦戦している。こうした中、まずは足下の国内市場を固めようという意図が感じられた。
 


 

■プロデューサーに求められるもの



後半では襟川氏が「ゲームの未来」について、「ビジネスモデル」「課金」「開発予算」「CG表現」「業界統合化」「新しいトレンド」「ライフスタイル」という7項目で語った。中でも「ビジネスモデル」については1990年代以降、「ゲームソフト開発」から「IPの創造と展開」に大きくシフトしてきたと分析した。

オリジナルゲームのヒットを起爆剤に、あらゆるメディア・ジャンルに横展開させていく手法は、欧米圏ではそれほど盛んではない。史上最強のIPホルダーともいえるディズニーですら、2016年にゲームパブリッシング事業から史上三度目の撤退を発表したほどだ。マーチャンダイジング展開で知られる『アングリーバード』が数少ない成功例だろう。

その一方で日本では1980年代からメディアミックスやトランスメディアが盛んで、市場が成熟している。ゲーム会社自らが出版事業に参入する例も多く、同社も旧・光栄時代から自社攻略本や関連書籍の出版をおこなってきた。当初は「水もの」のゲーム事業における売上補填という側面が強かったが、今やIP展開こそが会社の屋台骨を支えるまでになってきた。

襟川氏は『ポケモンGO』のヒットを引き合いに出し、VRやARといった新しい技術によって、今後もゲーム業界はさらなる発展を遂げていくと分析。ゲーム実況など、新たなトレンドもみられるとした。その一方で開発費用も増加が続き、今後も経営統合やM&Aが続くと予測。こうした中で、IPの創造と展開は今以上に重要になるとする。

ここで鍵を握るのがプロデューサーで、襟川氏も「シブサワ・コウ」として長年プロデューサー業をつとめている。そこで重視する点として「好きなことを一生懸命」「アイディアは実体験から」「部下は同志」「品質納期コスト」「コラボはリスペクトから」「決断」「最善・次善・次次善」「プロデューサーは経営者」「OS的発想」「顧客の創造」という10点をあげた。

中でも「アイディアは実体験から」という項目では、『川中島の合戦』『信長の野望』の開発秘話について触れた。『川中島の合戦』では、歴史小説が非常に好きで、名所旧跡をめぐるのが趣味だったこと。そして『信長の野望』では、経営者としての経験から、戦闘とマネジメントを組み合わせたらおもしろいに違いないという思いから、発想のヒントをえたという。
 



最後に襟川氏は聴講者に対して「野望を抱け」と呼びかけた。ぜひ皆さんなりの野望を持って、できればプロデューサー、経営者となってほしい――そして、充実した人生を送ってほしいという。ちなみに襟川氏の野望とは「新規タイトルを成功させること」と、「スマホゲームをヒットさせること」とのこと。特に後者は上司であり妻でもある恵子夫人に、尻を叩かれているところだとあかした。

 
 (取材・文:ライター  小野憲史)
 
 
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